ネットの削除請求
ネットの書き込みは名誉毀損?侮辱・プライバシー侵害との違いと削除・開示の基準
ネットの書き込みを削除させたり、投稿者を特定したりするには、その投稿が法律上の権利を侵害していることが必要です。名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害などについて、裁判所がどのような基準で判断しているかを解説します。
執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年10月4日更新 2026年10月4日
この記事のポイント
- 名誉毀損は、事実を示すことや、意見・論評によって、社会的な評価を下げる投稿です。真実であっても成立し得ますが、公共の利害に関わる事実について、専ら公益を図る目的で書かれ、重要な部分が真実である(または真実と信じる相当の理由がある)ときは責任を負いません。意見・論評の場合は、人身攻撃などに及んでいないことも必要です。
- 「バカ」「ブス」などの悪口は、社会通念上許される限度を超える侮辱かどうかで判断されます(最高裁平成22年4月13日判決)。
- 投稿があなたについてのものだと、読んだ人に分かること(同定可能性)が前提です。
まず確かめる2つのこと
誰のことか分かるか(同定可能性):投稿が自分について書かれたものだと、読んだ人に分かることが前提です。実名に似た仮名を使った記事でも、経歴などから、面識のある人などが本人のことだと推知できる場合には、名誉毀損やプライバシー侵害が成立し得るとした判例があります(最高裁平成15年3月14日判決)。ハンドルネームで活動している場合は、投稿の前後の内容やプロフィールとの結びつきなどから判断することになります。
どの権利が侵害されているか:削除や開示を求めるには、「ひどい投稿」というだけでは足りず、法律上の権利の侵害が必要です。主なものは、名誉権、名誉感情、プライバシー、肖像権です。
名誉毀損:社会的な評価を下げる投稿
名誉毀損は、人の社会的な評価を下げる表現です。投稿の意味は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます(最高裁昭和31年7月20日判決)。
- 事実を示すもの:「詐欺をしている」「不倫している」「前科がある」など。示された事実が真実かどうかを問わず成立し得ます。ただし、公共の利害に関わる事実について、専ら公益を図る目的で書かれ、その事実が真実であると証明されたとき(重要な部分が真実であれば足ります)、または真実と信じたことに相当の理由があるときは、責任を負いません(最高裁昭和41年6月23日判決、最高裁平成9年9月9日判決)。
- 意見・論評:事実を前提に意見を述べるものも、社会的な評価を下げれば名誉毀損になり得ます。ただし、公共の利害に関わり、公益目的で、前提となる事実の重要な部分が真実であり、人身攻撃に及ぶなど意見・論評の域を逸脱していなければ、責任を負いません(最高裁平成9年9月9日判決)。
会社も名誉の主体です(最高裁昭和39年1月28日判決)。お店を営む個人事業者も同じです。虚偽の口コミで信用を落とされた場合は、名誉毀損や信用毀損にあたる可能性があります。一方、「料理がおいしくない」「接客が悪い」といった感想の範囲の口コミは、権利侵害と認められにくい傾向があります。
侮辱(名誉感情の侵害):事実を示さない悪口
「バカ」「ブス」「気持ち悪い」のように、事実を示さずに人をおとしめる表現は、主に名誉感情の侵害として扱われます。最高裁は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であれば、人格的利益の侵害が認められ得るとしています(最高裁平成22年4月13日判決)。この判決は、「気違い」という語を含む掲示板の書き込みについて、書き込みの文言だけからは、許される限度を超える侮辱行為であることが一見明白とはいえないとして、裁判外の開示請求に応じなかったプロバイダに重大な過失はないと判断したものです。前後の書き込みや経緯も考慮して判断すべきだとしており、悪口であれば一律に開示が認められないという趣旨ではありません。
判断にあたっては、表現の内容、回数、前後の文脈などが考慮されます。刑事では、侮辱罪(刑法231条)にあたり得ます。
プライバシー侵害:事実でも問題になる
住所・電話番号・病歴・前科・家族関係など、私生活上の事実を公開されることは、それが事実でもプライバシーの侵害になり得ます。氏名・住所・電話番号のような情報も、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとした判例があります(最高裁平成15年9月12日判決)。
プライバシーの侵害にあたるかは、その事実を公表されない法的利益と、公表する理由とを比べて判断します。X(旧Twitter)の投稿については、公表されない法的利益が優越する場合に削除を求められるとし、約8年前の逮捕歴に関する投稿の削除を認めました(最高裁令和4年6月24日判決)。検索結果の削除は、公表されない法的利益が優越することが「明らか」な場合に限られます(最高裁平成29年1月31日決定)。
肖像権:顔写真や動画の無断掲載
人は、自分の容ぼうや姿をみだりに撮影されたり、公表されたりしない人格的な利益を持っています。撮影が違法かどうかは、撮影された人の社会的な地位、活動の内容、撮影の場所・目的・態様・必要性などを総合して、社会生活上我慢すべき限度を超えるかで判断され、違法に撮影された写真を公表することも違法とされます(最高裁平成17年11月10日判決)。自分で撮った写真を無断で使われた場合は、著作権に基づく削除も検討します(著作権法21条・23条・112条)。
削除と開示で、求められる程度が違う
名誉を違法に侵害された人は、人格権としての名誉権に基づいて、侵害行為の差止めを求めることができます(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決)。一方、投稿者の特定(発信者情報開示)では、権利の侵害が「明らか」であることが必要です(情報流通プラットフォーム対処法5条1項1号)。削除は認められても、開示は認められないということも起こります。
また、サイト運営者の削除の判断は、規約や運営者自身の調査によるもので、裁判所と結論が異なることがあります。運営者に断られても、裁判所の仮処分で削除が認められることがあります。
弁護士に相談するタイミング
投稿が名誉毀損などにあたるか判断がつかない場合も、ご相談ください。投稿の文言、前後の文脈、裏付けの有無から、削除・開示・損害賠償の見込みをお伝えします。
執筆 弁護士 松井 春樹
第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。
公式プロフィール ↗参考資料
- 刑法(e-Gov法令検索)
- 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(e-Gov法令検索)
- 著作権法(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所第二小法廷 平成15年3月14日判決(長良川事件報道訴訟・民集57巻3号229頁)
- 最高裁判所第二小法廷 昭和31年7月20日判決(民集10巻8号1059頁)
- 最高裁判所第一小法廷 昭和41年6月23日判決
- 最高裁判所第三小法廷 平成9年9月9日判決(民集51巻8号3804頁)
- 最高裁判所第一小法廷 昭和39年1月28日判決(法人の名誉毀損・民集18巻1号136頁)
- 最高裁判所第三小法廷 平成22年4月13日判決
- 最高裁判所第二小法廷 平成15年9月12日判決(民集57巻8号973頁)
- 最高裁判所第二小法廷 令和4年6月24日判決
- 最高裁判所第三小法廷 平成29年1月31日決定
- 最高裁判所第一小法廷 平成17年11月10日判決(民集59巻9号2428頁)
- 最高裁判所大法廷 昭和61年6月11日判決(北方ジャーナル事件・民集40巻4号872頁)
法令は2026年10月4日時点の内容です。個別の事案への当てはめは、事情によって異なります。
関連する解説
- ネットの削除請求匿名の投稿者を特定するには:発信者情報開示命令の流れ・期間・ログの保存期間ネットの匿名の投稿者は、裁判所の発信者情報開示命令の手続で特定できる場合があります。手続の流れ、かかる期間、通信記録(ログ)の保存期間、開示が認められる要件と費用の考え方を弁護士が解説します。
- パワハラ被害パワハラの定義と6つの類型:どこからがパワハラかパワハラの3つの要素は法律に定められ、厚生労働省の指針が6つの類型を示しています。3つの要素、業務上の指導との違い、2026年10月1日施行の改正のポイントを弁護士が解説します。
- 不倫慰謝料不倫慰謝料の請求に必要な証拠:LINE・写真・自白はどこまで使えるか不倫の慰謝料を請求するには、肉体関係(不貞行為)を示す証拠が重要です。LINE・写真・探偵の報告書・自白の録音や念書など、証拠ごとの強さと注意点、違法な証拠集めのリスクを弁護士が解説します。