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ネットの削除請求

匿名の投稿者を特定するには:発信者情報開示命令の流れ・期間・ログの保存期間

匿名の投稿で中傷されたとき、「誰が書いたのか知りたい」というご相談は多くあります。投稿者の特定は、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示の手続で行います。手続の流れ、期間、通信記録の保存期間との関係、開示が認められる要件を解説します。

執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年10月4日更新 2026年10月4日

この記事のポイント

  • 2022年10月1日施行の改正で、サイト運営者と接続プロバイダへの開示を、裁判所の一体的な手続(発信者情報開示命令事件)で進められるようになりました。
  • 接続プロバイダの通信記録には保存期間があり、ガイドラインの解説は少なくとも3〜6か月程度の保存を望ましい目安としています。投稿から時間がたつほど、特定は難しくなります。
  • 開示が認められるには、投稿によって権利が侵害されたことが明らかであることなどが必要です(同法5条1項)。

投稿者を特定するしくみ

匿名の投稿者を特定する手続は、情報流通プラットフォーム対処法(正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。旧プロバイダ責任制限法が2025年4月1日に改正・改称されたもの)に定められています。

ネットの投稿には、通常、2つの事業者が関わっています。

  • サイト運営者(コンテンツプロバイダ):X、Instagram、Googleマップ、掲示板などの運営者です。投稿に使われたIPアドレスや投稿日時などの記録を持っています。
  • 接続プロバイダ(アクセスプロバイダ):携帯電話会社や光回線の事業者など、投稿者がインターネットに接続するために契約している事業者です。IPアドレスなどから、契約者の氏名・住所が分かります。

そのため、特定は「運営者の記録から接続プロバイダをたどる」「接続プロバイダから契約者の情報を得る」という2段階で進みます。投稿時の記録を保存していないサービスでは、ログイン時の通信記録の開示を求めることがあり、その場合は追加の要件があります(同法5条1項3号)。

発信者情報開示命令の流れ

2022年10月1日に施行された改正で、2段階の手続を、裁判所の一体的な手続(発信者情報開示命令事件)で進められるようになりました。

  1. 証拠を保存する:投稿の画面を、URL・投稿日時・アカウント名が分かる形で保存します。
  2. 運営者に対して申し立てる:裁判所に発信者情報開示命令を申し立て(同法8条)、あわせて提供命令を申し立てます(同法15条)。提供命令によって、投稿に使われた接続プロバイダの名前と住所の提供を受けます。運営者が持つIPアドレスなどは、運営者から接続プロバイダに直接提供されます。
  3. 接続プロバイダに対して申し立てる:接続プロバイダを相手に開示命令を申し立て、通信記録の消去を禁じる消去禁止命令も申し立てます(同法16条)。
  4. 投稿者への意見照会:開示の請求を受けた事業者は、原則として投稿者の意見を聴かなければなりません(同法6条1項)。そのため、開示の請求があったことは、通常、投稿者に伝わります。
  5. 開示:開示を命じる決定に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から1か月以内に異議の訴えを起こすことができます。起こされなければ、決定は確定判決と同じ効力を持ち(同法14条1項・5項)、契約者の氏名・住所などが開示されます。

申立手数料は、申立てごとに1,000円です(東京地方裁判所)。裁判所を通さずに事業者に開示を求めることや(同法5条)、従来の仮処分と訴訟による方法を選ぶこともできます(総務省「プロバイダ責任制限法 逐条解説」)。

どのくらいの期間がかかるか

令和6年12月までに終わった発信者情報開示命令の手続の平均審理期間は、約103日(概数)とされています(総務省資料)。接続プロバイダが複数の層になっている場合(格安SIMなど)は、さらに時間がかかることがあります。開示を受けた後の損害賠償の請求まで含めると、全体ではさらに期間を見込む必要があります。

通信記録(ログ)の保存期間に注意

接続プロバイダの通信記録は、いつまでも保存されているわけではありません。保存期間は事業者ごとに異なり、個人情報保護委員会・総務省のガイドラインの解説は、少なくとも3〜6か月程度の保存を望ましい目安としています。記録が消えると、投稿者をたどれなくなることが多くなります。

投稿から3か月以内を一つの目安に、できるだけ早く着手してください。時間が経っていても、記録が残っていることや、アカウントに登録された電話番号の開示を受けて契約者をたどれることがあります(同法施行規則2条)。投稿の削除だけであれば、時間が経っていても求められます。

開示が認められるための要件

開示が認められるには、次の両方が必要です(同法5条1項1号・2号)。

  • 権利侵害の明白性:投稿によって権利が侵害されたことが明らかであること。名誉毀損であれば、投稿の内容が真実であるなど、責任を否定する事情の存在をうかがわせる事情がないことまで求められると解されています(総務省「プロバイダ責任制限法 逐条解説」、発信者情報開示関係ガイドライン)。
  • 正当な理由:損害賠償の請求のために必要であるなど、開示を受ける正当な理由があること。

開示の対象は、不特定の人に受信されることを目的とする通信(特定電気通信)による投稿です(同法2条1号)。1対1のDMや、メンバーが決まっているグループの中のやり取りは、不特定の人に受信されることを目的とする通信ではないため、原則として対象になりません。

開示を受けた人が、その情報をみだりに使って、投稿者の名誉や生活の平穏を不当に害することは禁じられています(同法7条)。

費用と、投稿者への請求

特定した投稿者には、損害賠償を求めます(民法709条・710条)。投稿が残っていれば、削除も求めます。慰謝料に加えて、投稿者の特定にかかった調査費用も損害として請求しますが、認められる額は事案によって大きく異なり、全額が認められるとは限りません。名誉毀損罪・侮辱罪で刑事告訴をする場合は、犯人を知った日から6か月以内に告訴する必要があります(刑法232条、刑事訴訟法235条)。

弁護士に相談するタイミング

投稿を見つけたら、できるだけ早くご相談ください。ログの保存期間との関係で、相談の時期が結果を左右することがあります。特定の見込みと費用の釣り合いを、ご依頼の前にお伝えします。

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執筆 弁護士 松井 春樹

第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。

公式プロフィール ↗

参考資料

  1. 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(e-Gov法令検索)
  2. 特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
  3. 民法(e-Gov法令検索)
  4. 刑法(e-Gov法令検索)
  5. 刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
  6. 東京地方裁判所「発信者情報開示命令申立て(電子申立て不可)」
  7. 総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会(第9回)資料9-1-2「発信者情報開示制度を巡る課題への対処について」(令和8年5月)
  8. 個人情報保護委員会・総務省「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインの解説」(5-1-1)
  9. 総務省「プロバイダ責任制限法 逐条解説」(2023年3月)
  10. 情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会「発信者情報開示関係ガイドライン」(第10版)

法令は2026年10月4日時点の内容です。個別の事案への当てはめは、事情によって異なります。

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