交通事故
交通事故の慰謝料は3つの基準でどう違う?保険会社の提示額を確かめるポイント
保険会社から示談金の提示を受けて、「この金額は妥当なのか」と迷う方は多くいます。交通事故の慰謝料には3つの基準があり、どの基準で計算するかで金額が大きく変わることがあります。基準の違いと、提示額を確かめるポイントを解説します。
執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年10月4日更新 2026年10月4日
この記事のポイント
- 自賠責基準の入通院慰謝料は1日4,300円で、傷害部分は治療費なども含めて120万円が支払いの上限です(2020年4月1日以降の事故)。
- 弁護士基準(裁判基準)は裁判例をもとにした基準で、一般に3つの中で最も高い水準です。
- 示談書に署名すると、原則としてやり直せません。署名の前に、内訳と計算の基準を確かめてください。
交通事故の慰謝料は3種類
- 入通院慰謝料:けがで入院・通院したことによる精神的苦痛に対するもの。治療の期間や日数をもとに計算します。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことに対するもの。認定された等級をもとに計算します。
- 死亡慰謝料:亡くなった方本人と、ご遺族の精神的苦痛に対するものです。
慰謝料は、賠償金の一部にすぎません。治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害による逸失利益などとあわせて、示談金の総額になります(民法709条・710条、自動車損害賠償保障法3条)。
3つの基準の違い
自賠責基準は、自賠責保険の支払基準(金融庁・国土交通省告示)による基準です。被害者に最低限の補償をするためのもので、2020年4月1日以降の事故では、入通院慰謝料は1日4,300円です。対象となる日数は、治療期間の範囲内で、けがの状態や実際の治療日数などを考慮して決まり、実務では、治療期間と、実際に治療を受けた日数(入院日数を含む)の2倍のうち、少ない方とされるのが一般的です(保険会社の請求案内など)。傷害の部分は、治療費や休業損害なども含めて120万円が支払いの上限です(自動車損害賠償保障法施行令2条1項3号イ)。
任意保険基準は、各保険会社が社内で定めている基準で、公開されていません。
弁護士基準(裁判基準)は、裁判例をもとにした基準で、日弁連交通事故相談センター東京支部の『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(いわゆる赤い本)などにまとめられています。弁護士が代理人として交渉するときは、この基準をもとにします。一般に、3つの中で最も高い水準です。
金額はどのくらい違うか
むちうち(画像などで確認できる所見のないもの)で6か月(180日)通院し、実際に通院した日が60日だった場合の、入通院慰謝料の目安です。
- 自賠責基準:対象日数は、180日と120日(60日×2)の少ない方の120日として、4,300円×120日=51万6,000円
- 弁護士基準:赤い本の別表II(むちうちで他覚所見がない場合などに使う表)で、通院6か月は89万円
骨折などのけがで別表Iを使う場合、通院6か月は116万円が目安です。後遺障害慰謝料は、たとえば14級は自賠責基準で32万円、弁護士基準で110万円、12級は自賠責基準で94万円(2020年4月1日以降の事故)、弁護士基準で290万円が目安です。
弁護士基準も目安であり、通院の頻度や個別の事情で増減します。また、自賠責基準の入通院慰謝料は、傷害部分の上限120万円の範囲内で、治療費などほかの損害と合わせて支払われます。なお、自賠責保険は被害者の過失が7割以上の重大な過失でなければ減額しないため(支払基準)、ご自身の過失が大きい事故では、自賠責保険からの支払いが重要になることがあります。
保険会社の提示額を確かめる5つのポイント
- 内訳:治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益、過失相殺、既払金の控除が、項目ごとに示されているか
- 慰謝料の計算方法:どの基準で、何日(何か月)を対象に計算しているか
- 休業損害:家事従事者(専業・兼業の主婦・主夫)の休業損害が0円になっていないか。自賠責の支払基準でも、家事従事者は休業による収入の減少があったものとみなされます
- 後遺障害:認定された等級に応じた後遺障害慰謝料と逸失利益が計上されているか
- 過失割合:ご自身の過失が何割とされ、どの損害から差し引かれているか(民法722条2項)
ご自身や同居のご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士費用の負担なく依頼できる場合があります。
示談した後に、追加の請求はできるか
示談書(免責証書)に署名すると、示談で定めた以外の請求はしないという合意が成立し、原則としてやり直せません(民法695条・696条)。
ただし最高裁は、損害の全体を正確に把握しにくい状況で、早急に少額の賠償金で満足する旨の示談がされた場合、示談の当時に予想できなかった後遺症などの損害についてまで、請求権を放棄したものとは解されないとしています(最高裁昭和43年3月15日判決)。もっとも、これは例外的な場面です。治療が終わり、後遺障害の等級が決まってから示談するのが原則です。
話し合いがまとまらないとき
保険会社と合意できない場合は、公益財団法人交通事故紛争処理センターの和解あっせん(無料)や、訴訟で解決を図ります。人身損害の損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効になるため(民法724条の2)、交渉が長引くときは期限にも注意が必要です。
弁護士に相談するタイミング
示談金の提示を受けたら、署名する前にご相談ください。提示書をもとに、項目ごとに弁護士基準との違いをご説明し、弁護士費用を差し引いても増額が見込めるかをお伝えします。
執筆 弁護士 松井 春樹
第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。
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