交通事故
交通事故の治療費を打ち切られたら:症状固定との関係と、通院を続ける方法
通院を続けている途中で、相手の保険会社から「今月末で治療費の支払いを終える」と告げられることがあります。打ち切りは保険会社の支払いについての判断で、治療をやめなければならないという意味ではありません。症状固定との関係と、打ち切りを告げられたときにできることを解説します。
執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年10月4日更新 2026年10月4日
この記事のポイント
- 治療費の打ち切りは、保険会社が病院への直接の支払い(一括対応)を終えるという判断です。治療を続けるかどうかは、医師の診断をもとに決めます。
- 打ち切りの後も、健康保険などを使って通院を続け、必要かつ相当な治療費は、後から相手に請求できる可能性があります。
- 症状固定の後は、治療費・休業損害・入通院慰謝料の対象期間が終わり、残った症状は後遺障害として評価されます。
「打ち切り」とは何か
交通事故の治療費は、相手の任意保険会社が、自賠責保険の分も含めて病院に直接支払う「一括対応」が一般的です(国土交通省)。治療費の打ち切りとは、保険会社がこの直接の支払いを終えることをいいます。
打ち切りは、保険会社が「これ以上は病院に直接支払わない」と判断したということで、治療をやめなければならないという意味ではありません。治療がいつまで必要かは、医師の医学的な判断がもとになり、争いになれば、診療記録などをもとに裁判所が判断します。
打ち切りを告げられたら、まずすること
- 主治医に確かめる:症状の経過、治療の効果、今後の見通しを確認し、治療の継続が必要であれば、その意見を診断書などで示してもらいます。
- 保険会社に伝える:医師の意見をもとに、支払いの継続を求めます。
- 打ち切られた後の支払い方法を決める:健康保険を使って通院を続けられます。その場合は、加入している健康保険に「第三者行為による傷病届」を提出します(全国健康保険協会)。仕事中や通勤中の事故であれば、健康保険ではなく労災保険を使います。ご自身の自動車保険に人身傷害保険が付いていれば、そこから支払いを受けられる場合もあります。
- 領収書と明細を残す:打ち切りの後に自分で払った治療費や交通費は、後で請求するために必要です。
打ち切りの後の治療費は請求できるか
打ち切りの後に自分で支払った治療費も、事故によるけがの治療として必要かつ相当な範囲であれば、示談や訴訟で相手に請求できる可能性があります(民法709条)。必要性は、症状の経過、治療の内容と効果、医師の意見などから判断されます。
一方で、症状固定の後の治療費は、原則として請求が認められません。また、自己判断で長く通院を中断すると、その後の症状と事故との関係を疑われやすくなります。医師の指示どおりに通院を続けてください。
相手の自賠責保険に対しては、被害者から直接、治療費などを請求することもできます(自動車損害賠償保障法16条1項)。傷害部分の支払いは、120万円が上限です(同法施行令2条1項3号イ)。
症状固定とは
症状固定とは、治療を続けても、それ以上症状の改善が見込めなくなった状態をいいます。いつ症状固定とするかは、医師の医学的な判断が基本になり、争いになれば最終的には裁判所が判断します。保険会社から「そろそろ症状固定です」と言われても、それに従う義務はありません。
症状固定は、賠償の区切りになります。
- 症状固定までの損害:治療費、休業損害、入通院慰謝料など
- 症状固定の後に残った症状:後遺障害として、後遺障害慰謝料と逸失利益(将来の収入の減少)で評価
後遺障害に関する損害賠償の時効(5年。民法724条の2)は、遅くとも症状固定の診断を受けた時から進むとされています(最高裁平成16年12月24日判決)。相手の自賠責保険への後遺障害分の請求は、症状固定日の翌日から3年です(自動車損害賠償保障法19条、国土交通省)。
痛みが残っている場合は、後遺障害の申請へ
症状固定の時点で痛みやしびれが残っていれば、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、等級の認定を申請します。申請には、相手の任意保険会社を通す「事前認定」と、被害者が相手の自賠責保険に直接請求する「被害者請求」(自動車損害賠償保障法16条1項)があります。
むちうちでは、14級9号(局部に神経症状を残すもの)か、12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に当たるかが問題になります(同法施行令別表第二)。認定には、事故直後からの症状の一貫性、通院の経過、画像や神経学的検査の結果が重要です。打ち切りを理由に早く治療をやめてしまうと、通院の経過が十分に残らないことがあります。
整骨院に通っている場合
自賠責の支払基準では、整骨院(接骨院)の施術費も、必要かつ妥当な実費の範囲で、支払いの対象とされています。もっとも、保険会社との交渉や裁判では、医師の指示や同意があるかが問題になりやすい点です。整形外科への定期的な受診を続け、整骨院に通うことを医師に伝えておいてください。
弁護士に相談するタイミング
打ち切りの連絡を受けた時点でご相談ください。主治医の意見の確かめ方、保険会社への伝え方、打ち切りの後の通院や後遺障害の申請まで、見通しを立てます。弁護士費用特約があれば、特約の上限(一般に300万円)の範囲内で、治療中からのご依頼でも費用のご負担は原則ありません。
執筆 弁護士 松井 春樹
第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。
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