遺産相続
遺留分侵害額請求とは?もらえる割合・計算方法と「1年」の期限
「全財産を長男に」という遺言があっても、兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の取り分である遺留分が認められています。誰がどれだけ請求できるか、生前贈与はどう扱うか、期限と請求の手順を、具体例とともに解説します。
執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年10月4日更新 2026年10月4日
この記事のポイント
- 遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められます。割合は、遺留分を算定するための財産(遺産に一定の生前贈与を加え、債務を差し引いたもの)の2分の1(親などの直系尊属だけが相続人なら3分の1)に、各自の法定相続分を掛けたものです(民法1042条)。
- 2019年7月1日以降に開始した相続では、遺留分に足りない分を金銭で請求する「遺留分侵害額請求」になりました(民法1046条)。
- 相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内に請求しないと、時効で消滅します(民法1048条)。
遺留分とは
遺留分は、一定の相続人に保障された、遺産の最低限の取り分です。遺言や生前贈与によって遺留分に足りない分しか受け取れなかった相続人は、多く受け取った人に対して、足りない分に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条1項)。
遺留分があるのは、兄弟姉妹以外の相続人です(民法1042条1項)。配偶者、子(子が先に亡くなっている場合は孫などの代襲相続人)、子がいない場合の親などが対象で、兄弟姉妹やその子(甥・姪)にはありません。
2019年7月1日に施行された改正で、それまでの「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に改められ、不動産などの物そのものではなく、金銭の支払いを求める権利になりました。2019年6月30日以前に開始した相続には、改正前の規定が適用されます(平成30年法律第72号附則2条、法務省)。
遺留分の割合
遺留分全体の割合は、遺留分を算定するための財産(下の計算方法の1)に対して、親などの直系尊属だけが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です。相続人が複数いるときは、これに各自の法定相続分を掛けます(民法1042条)。
- 配偶者と子2人:配偶者は4分の1、子はそれぞれ8分の1
- 子2人だけ:それぞれ4分の1
- 配偶者と親2人(子がいない場合):配偶者は3分の1、親はそれぞれ12分の1
- 親2人だけ:それぞれ6分の1
遺留分の計算方法
- 遺留分を算定するための財産の価額を出す:亡くなった時の財産に、一定の生前贈与を加え、借金などの債務を差し引きます(民法1043条1項)。加える贈与は、相続人以外への贈与は原則として亡くなる前1年間のもの、相続人への贈与は亡くなる前10年間の、婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として受けたものです(民法1044条1項・3項)。贈与した人と受けた人の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与は、それより前のものも加えます(同条1項)。
- 各自の遺留分の額を出す:1の額に、上の遺留分の割合を掛けます。
- 遺留分侵害額を出す:2の額から、請求する人自身が受けた遺贈や特別受益にあたる贈与の額と、遺産分割で取得すべき遺産の額を差し引き、請求する人が引き継ぐ債務の額を加えます(民法1046条2項)。
たとえば、父が亡くなり、相続人は子A・Bの2人、遺産は預金2,000万円と自宅(評価額1,000万円)で借金はなく、「全財産をAに相続させる」という遺言があったとします。Bの遺留分は、3,000万円×2分の1×2分の1=750万円で、BはAに750万円を請求できます。Aが5年前に住宅の購入資金として1,000万円の贈与を受けていた場合は、これも加えた4,000万円で計算するため、Bの遺留分は1,000万円になり、BはAに1,000万円を請求できます。
金銭の贈与は、贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算して評価するとした判例があります(最高裁昭和51年3月18日判決)。不動産や非上場株式は評価額で争いになりやすく、固定資産税評価額や路線価がそのまま使われるとは限りません。
死亡保険金の受取人を変更することは、遺留分の対象となる遺贈や贈与にあたらないとした判例があり(最高裁平成14年11月5日判決)、受取人が指定された死亡保険金は、原則として遺留分の計算に含まれないと考えられています。ただし、保険金の額が遺産に比べて著しく大きいなどの特段の事情があれば、特別受益に準じて扱われる可能性があります(遺産分割について、最高裁平成16年10月29日決定)。
請求の期限:「知った時から1年」
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。知らなかった場合でも、相続開始の時から10年を過ぎると請求できなくなります(民法1048条)。
1年以内に必要なのは、相手方に遺留分侵害額を請求するという意思を伝えることです。家庭裁判所に調停を申し立てただけでは、相手方への意思表示にはならないとされているため(裁判所「遺留分侵害額の請求調停」)、配達証明付きの内容証明郵便で通知するのが一般的です。
意思表示によって生じた金銭の支払いを求める権利は、これとは別に、一般の債権と同じ消滅時効(権利を行使できることを知った時から5年。民法166条1項1号)にかかると解されています(法制審議会民法(相続関係)部会資料16参照)。通知をした後も、交渉を長く放置しないよう注意が必要です。
遺言の有効性そのものを争う場合も、遺言が有効とされたときに備えて、期限内に遺留分侵害額請求の意思表示をしておくのが安全です。
請求の手順
- 調べる:戸籍で相続人を確定し、遺言の内容、遺産、生前贈与を調べます。預金は、相続人の一人でも、金融機関に取引の経過の開示を求められます(最高裁平成21年1月22日判決)。
- 通知する:遺贈や贈与を受けた人に、内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示をします。
- 交渉する:財産の評価と金額、支払いの時期・方法を話し合います。
- 調停・訴訟:まとまらなければ、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。訴訟を起こす前に、原則として調停を経る必要があります(家事事件手続法257条1項)。調停が成立しなければ、地方裁判所などに訴訟を起こします。
請求された側の方へ
請求された額が正しいとは限りません。財産の評価や、請求する人自身が受けた生前贈与の扱いによって、金額は大きく変わります。遺贈を受けた人と贈与を受けた人がいる場合は、遺贈を受けた人が先に負担するなど、負担の順序も決まっています(民法1047条1項)。すぐに金銭を用意できない場合は、裁判所に支払期限の猶予を求めることができます(同条5項)。
弁護士に相談するタイミング
遺言の内容を知った時点で、ご相談ください。1年の期限は、気づかないうちに迫っていることがあります。財産の調査、評価、通知書の作成から、交渉・調停・訴訟まで対応します。
執筆 弁護士 松井 春樹
第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。
公式プロフィール ↗参考資料
- 民法(e-Gov法令検索)
- 家事事件手続法(e-Gov法令検索)
- 裁判所「遺留分侵害額の請求調停」
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
- 法務省「経過措置について」(相続法の改正)
- 法務省 法制審議会民法(相続関係)部会資料16
- 最高裁判所第一小法廷 昭和51年3月18日判決(民集30巻2号111頁)
- 最高裁判所第一小法廷 平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069頁)
- 最高裁判所第二小法廷 平成16年10月29日決定(民集58巻7号1979頁)
- 最高裁判所第一小法廷 平成21年1月22日判決(預金の取引経過の開示)
法令は2026年10月4日時点の内容です。個別の事案への当てはめは、事情によって異なります。
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