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解雇・退職

退職勧奨を断ったら解雇される?断り方と、会社が解雇できる条件

退職勧奨は、会社から退職を「お願い」されている段階です。応じるかどうかは、ご自身で決められます。断り方の注意点と、断った後に解雇された場合の考え方を解説します。

執筆 弁護士 松井春樹(第二東京弁護士会)公開 2026年9月30日更新 2026年9月30日

この記事のポイント

  • 退職勧奨に応じる義務はなく、退職するかどうかは労働者が決められます。
  • 断ったことを理由にした解雇でも、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当でなければ無効です(労働契約法16条)。
  • 退職届や合意書に署名すると、後から争うのが難しくなることがあります。署名の前にご相談ください。

退職勧奨とは

退職勧奨は、会社が労働者に退職を促し、自分から辞めるよう働きかけることです。労働者が同意しない限り、雇用契約は終わりません。この点で、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」とは異なります。

ただし、退職勧奨に応じて退職届を出したり、退職合意書に署名したりすると、合意による退職として扱われます。後から「本当は辞めたくなかった」と主張しても、覆すのは簡単ではありません。

断ったら解雇される?会社が解雇できる条件

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法16条)。退職勧奨を断ったことだけを理由とする解雇は、この基準に照らして問題となる可能性があります。

例えば、こういう場合は裁判上、無効とされた例があります。

  • 退職勧告に応じなかった社員を、仕事のない部屋での勤務を経て、人事考課が下位10%未満であることなどから「労働能率が劣り、向上の見込みがない」として解雇した→ 平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、教育・指導による改善の余地もあったとして、解雇権の濫用で無効セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁 平成11年10月15日決定・労判770号34頁)
  • 勤続20年以上の社員2名に「期限までに自主退職しなければ、能力不足で解雇する」と通知し、自宅待機命令を繰り返した後に解雇した→ 長く勤めた社員を成績不良で解雇するには、単なる成績不良では足りず、企業から排除しなければならない程度に至っている必要があるとして無効エース損害保険事件(東京地裁 平成13年8月10日決定・労判820号74頁)
  • 園児の減少を理由に、保母2名を指名して解雇した。事前の説明や希望退職の募集をせず、解雇の6日前に突然通告した→ 労使間の信義則に反し、解雇権の濫用として無効あさひ保育園事件(最高裁第一小法廷 昭和58年10月27日判決・集民140号207頁)
  • 精神的な不調から「問題が解決するまで出勤しない」と伝え、有給休暇を使い切った後、約40日間欠勤した従業員を諭旨退職処分にした→ 会社は精神科医による健康診断や、治療の勧め、休職などを検討すべきだったとして、欠勤は懲戒事由にあたらず処分は無効日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁第二小法廷 平成24年4月27日判決・労判1055号5頁)
  • ラジオ局のアナウンサーが宿直中に寝過ごし、2週間に2回、朝の定時ニュースを放送できなかった(2回目は事実と異なる報告書も提出)→ 起こす役の同僚も寝過ごしていたことや、会社に事故防止の対策がなかったことなどから、普通解雇は苛酷にすぎ、解雇権の濫用として無効高知放送事件(最高裁第二小法廷 昭和52年1月31日判決・集民120号23頁)
  • 「グルーミー(陰気)な印象」を理由に、卒業直前になって採用内定を取り消した→ 暗い印象は内定の時点で分かっていたことであり、取消しは解約権の濫用として無効大日本印刷事件(最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日判決・民集33巻5号582頁)
  • トラック運転手が髪を黄色に染め、元の色に戻すよう指示されても従わず、始末書も出さなかったことを理由に諭旨解雇した→ 髪の色などへの制限は企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲にとどまるべきで、解雇事由はないとして無効東谷山家事件(福岡地裁小倉支部 平成9年12月25日決定・労判732号53頁)
  • 夜11時過ぎに他人の家に無断で入り、住居侵入罪で罰金2,500円の刑を受けた工員を懲戒解雇した→ 業務と関係のない私生活上の行為で、会社の体面を著しく汚したとまではいえないとして無効横浜ゴム事件(最高裁第三小法廷 昭和45年7月28日判決・民集24巻7号1220頁)
  • 職場で上司に暴行してけがをさせた従業員を、事件から7年以上たってから懲戒解雇した→ 長期間処分を保留した合理的な理由がなく、刑事事件も不起訴となっていたことなどから、権利の濫用として無効ネスレ日本事件(最高裁第二小法廷 平成18年10月6日判決・労判925号11頁)
  • 会社の承認を得ずに市議会議員に就任したことを理由に懲戒解雇した→ 公職への就任を承認制とし、違反を懲戒解雇とする就業規則の規定は、公民権の行使を保障する労働基準法7条の趣旨に反し無効(業務に著しい支障が生じる場合に普通解雇とする余地までは否定していない)十和田観光電鉄事件(最高裁第二小法廷 昭和38年6月21日判決・民集17巻5号754頁)

いずれも、個別の事情を総合的に考慮した判断です。似た事情でも、結論が異なることがあります。

また、会社が解雇するときは、原則として、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。予告や手当があっても、解雇が有効になるわけではありません。

退職勧奨の断り方

  • 「退職するつもりはありません」と、はっきり伝える
  • その場で返事や署名をしない。書面を渡されたら持ち帰って確認する
  • 面談の日時、出席者、言われた内容をメモに残す。メールで回答した場合は送信記録を保存する
  • 何度も呼び出される、長時間に及ぶ、人格を否定する発言があるといった場合は、早めに相談する

退職勧奨そのものは違法ではありません。しかし、社会通念上相当な範囲を超える執拗な働きかけは、不法行為(民法709条)にあたると判断されることがあります。

退職に応じる場合に確認したいこと

退職を受け入れる場合でも、退職日、退職金の扱い、未払いの残業代、有給休暇の消化、会社が示す退職理由などは、交渉の対象になります。

雇用保険では、「事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者」は特定受給資格者の範囲に含まれています(ハローワーク「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」)。なお、従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」などに応募して離職した場合は、これに該当しないとされています。離職票に書かれた離職理由は、必ず確認してください。

弁護士に相談するタイミング

退職届の提出期限を切られた、解雇をほのめかされた、合意書への署名を求められているといった段階でご相談いただくと、選べる対応が多くなります。すでに署名した後でも、経緯によっては検討できることがあります。

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執筆 弁護士 松井 春樹

第二東京弁護士会所属。弁護士法人越水法律事務所。東京大学法学部卒業後、森・濱田松本法律事務所を経て現職。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でスポットワークの労働問題を解説(2025年9月)。

公式プロフィール ↗

参考資料

  1. 労働契約法(e-Gov法令検索)
  2. 労働基準法(e-Gov法令検索)
  3. 民法(e-Gov法令検索)
  4. ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
  5. 東京地方裁判所 平成11年10月15日決定 平成11年(ヨ)第21055号(セガ・エンタープライゼス事件・全国労働基準関係団体連合会「労働基準判例検索」)
  6. 東京地方裁判所 平成13年8月10日決定 平成13年(ヨ)第21081号(エース損害保険事件・全国労働基準関係団体連合会「労働基準判例検索」)
  7. 最高裁判所第一小法廷 昭和58年10月27日判決 昭和55年(オ)第103号(あさひ保育園事件・裁判所ウェブサイト)
  8. 最高裁判所第二小法廷 平成24年4月27日判決 平成23年(受)第903号(日本ヒューレット・パッカード事件・裁判所ウェブサイト)
  9. 最高裁判所第二小法廷 昭和52年1月31日判決 昭和49年(オ)第165号(高知放送事件・裁判所ウェブサイト)
  10. 最高裁判所第二小法廷 昭和54年7月20日判決 昭和52年(オ)第94号(大日本印刷事件・裁判所ウェブサイト)
  11. 福岡地方裁判所小倉支部 平成9年12月25日決定 平成9年(ヨ)第285号(東谷山家事件・全国労働基準関係団体連合会「労働基準判例検索」)
  12. 最高裁判所第三小法廷 昭和45年7月28日判決 昭和44年(オ)第204号(横浜ゴム事件・裁判所ウェブサイト)
  13. 最高裁判所第二小法廷 平成18年10月6日判決 平成16年(受)第918号(ネスレ日本事件・裁判所ウェブサイト)
  14. 最高裁判所第二小法廷 昭和38年6月21日判決 昭和36年(オ)第1226号(十和田観光電鉄事件・裁判所ウェブサイト)

法令は2026年9月30日時点の内容です。個別の事案への当てはめは、事情によって異なります。

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